ピエール・ロバン症候群とは新生児において希に起こる先天性かつ複合的な疾患で、主な症状として小下顎症(micrognathia
または下顎後退症(retrognathia)) 、舌根沈下(glossoptosis)、気道閉塞(狭窄)が揃って見られます。その結果として呼吸困難が出生時から最大の問題となります。その他の、付随的な症状としては軟口蓋裂(cleft
soft palate)、近視、緑内症、摂食障害(dysphagia)、チアノーゼ(cyanosis)、不眠症、心房(心室)中隔欠損症、心臓肥大(cor
pulmonale)、肺動脈高血圧症(pulmonary hypertension)、動脈管開存症、脳障害、言語障害、運動機能障害などを伴うこともあります。世界で最初にこの障害について最初に詳細に報告したピエール・ロバン氏の名を取ってピエール・ロバン症候群とよばれます。
発生率は3000人に一人とも3万人に一人と言われていますが、ピエール・ロバンと診断されず、ただの小顎症と診断されるケースも多い様です。発生の多少に性別は関係ありません。
出生時がこの障害の最も危険な局面であり、そこで適切な処置を施され、幼児期にも適切な指導を受けられれば、予後は比較的良好で、学齢に達してからは普通の子供と何ら変わりのない成長を遂げるケースが多い様です。
乳児期には下顎やオトガイが極端に後退していて、横から見ると鳥の様な顔つき(鳥貌様顔貌)に見えますが、多くの場合発育と伴に下顎が上顎に追いつく様な発達(Catch-up
growth)が見られ、顔貌も大きく改善することが報告されています。
ピエール・ロバンの発生原因については正確には解っていませんが、遺伝性のものと、母体内での胎児の体位によるものと、薬物(drug)の影響によるものとが考えられています。
遺伝的(遺伝子的)要素を含むピエール・ロバンはピエール・ロバン症候群、英語でPierre
Robin Syndromeと呼ばれ、これは上記の3主徴の他に様々な遺伝子にからむ障害を併発しています。筋肉障害、発育障害、知能障害、他の症候群(Treacher
Collins, Stickler, Cerebro-Costo-Mandibular, Moebius, Trisomy 22 or Translocation
11;22)などが合わせて認められることがあります。
遺伝的でないピエール・ロバンはピエール・ロバン連鎖、英語ではPierre Robin
Sequenceと呼ばれます。その他Pierre Robin Anomalad やPierre Robin Complexと呼ばれることもあります。これは一つの奇形が他の奇形を連鎖的に誘発しているという考え方です。ピエール・ロバン事例の70から90%に起こる口蓋裂などはピエール・ロバンの連鎖として起こると考えます。ピエール・ロバン連鎖は主に母体内が窮屈であったりした場合、胎児が頭を過度に内側に抱え込み、顎の部分が胸に押されて発達が押さえられ、小顎になり、さらにそれによって舌が上に巻き込まれる様に伸びて上顎に挿入され、口蓋が閉じるのを妨げるために口蓋裂が起こり、舌根が咽頭部に沈下して気道狭窄が起こると考えられます。
また、最近の研究では顎の発達が始まる妊娠4週目前後の時期に母親が服用した薬物(drug)の影響でピエール・ロバンが起こるという可能性も報告されているようです。
ピエール・ロバンは妊娠中の綿密な超音波エコー診断によって発見することが可能な場合もあると言われています。もし妊娠中に発見することができれば、出生時の無呼吸状態から起こる様々な障害(特に脳細胞破壊)をいくらかでも未然に防ぐことができるでしょう。