What is research?

Reading Assignment

Burns, R.B. (2000) Introduction to Research Methods. 4th edition. Chapter 1. Longman.


1.1 What is research?

Research(リサーチ、研究)とはどういうことを意味するのでしょうか?Burns (2000:3) は”Research is a systematic investigation to find answers to a question." 「リサーチとはある問題に対する答えを探すべくシステマチックな調査をすること」がリサーチだと言っています。ここでいくつかのキーワードが出てきます。すなわちシステマチック、調査、問題ということばです。

まず、システマチックとはどういうことでしょうか?リサーチというものは単なる思い付きやひらめきだけで行われるものではありません。そこには綿密な計画と手順、そして可変項目の制御・管理が適切になされなければなりません。準備段階でしっかりとリサーチの目的や意義、方法、対象物、副作用(他への影響)などが細かく検討され、実行に当たってはきちんとした手順を踏み、そのなかで結果に影響を及ぼす諸要因を上手に制御して行けなければリサーチとは言えません。

調査には様々な形態があり、文献調査、アンケート、フィールド調査、実験など様々な方法があります。それら具体的な研究手法(research methods)については別の機会に学びますが、どの方法をとるにせよ、その方法が答えを見出すために最適のものであることが重要です。

「問題」とは研究課題(research question)となるものですが、リサーチに適した「問題」を見つけることそのものが大仕事です。自分の経験や先人の研究、社会的ニーズなどのなかからリサーチ・クェスチョンが見つかってきますがそれをリサーチのための「命題」まで昇華させるのが一苦労です。

Nunan (1998:3)は上記と似ていますが、もう少し詳しくリサーチを定義しています。"reserch is a systematic process of inquiry consisting of three elements or components: (1) a question, problem, or hypothesis, (2) data, (3) analysis and interpretation of data."彼によると、リサーチとは三つの部門から成り立つ探求だと言っています。その三つとは(1)疑問、問題、仮説、(2)資料・データ、(3)データの分析と解釈。まさにリサーチとはこの3つの部門をリサーチャー(研究者)が順番に訪ねていく過程だと言えますが、その流れはいつも一方向だけとは限りません。時に流れは逆流することもあることを忘れてはいけません。すなわち例えばデータの解釈中にどうも釈然としない点が出てくれば、もう一度データを取り直すこともあるかもしれませんし、また仮説を改定しなければならない場面も出てくるでしょう。

更にKerlinger(1970, cited in Cohen et al.: 5) はリサーチについてより科学的なアプローチを含め the systematic, controlled, empirical and critical investigation of hypothetical propositions about the presumed relations among natural phenomena と定義しています。この中には科学的なリサーチがそのパラメータや変数(因子)についてしっかりした「コントロール」ができていること、経験的に妥当性が検証できること、批判精神に貫かれていること、などがリサーチに欠かせないものとして押さえられています。

1.2 リサーチにおける二つのアプローチの仕方

 リサーチのアプローチにはいくつかの2項対立的な区別があるとBurnsは述べています。

1.2.1 The scientific empirical tradition vs. the naturalistic phenomenological mode

The scientific empirical tradition とは伝統的に「科学」と「科学でないもの」と言われてきた学問のうち、前者のアプローチを指しています。すなわち、これまで物理学とか化学とか機械工学とかのいわゆるハードサイエンスは伝統的に「科学」分野とみなされ、社会学や心理学や言語学のような学問は科学ではない、とされて来ました。(しかし今では社会学などもScocial Scienceと呼ばれて科学の一翼を担うと認識されて来ています。)伝統的に科学とされて来た学問が用いる研究手法は一般に実験などを伴い、数字、数量が焦点となるものです。これらの数量的差異は、実際に目で見たり、耳で聞いたり、手で触ったりしてその違いを経験することができます。それゆえ経験的(Empirical)なアプローチと言えます。

The naturalistic phenomenological mode とは上記の「科学的」アプローチに対して自然なセッティングで研究を進めるアプローチです。例えばマウスやモルモットを使った研究の多くはそれらの動物の脳を切り取ってしまったり、麻薬を注射したり、何時間も眠らせなかったりと、人工的で不自然な環境を作ったり、検体に人工的加工を無理やり加えたりして通常の検体と比較する手法を多く使います。しかし、人間の「引きこもり現象」を研究しようという場合、その様な強引な対照研究は不適切です。研究対象となる人間を通常で自然な環境の中におき、注意深く観察・記録することによってこの様な研究は進められるべきです。また20世紀初頭の構造主義的なアプローチの様に、何でもかんでも微小な差異にこだわるのではなく、大きな全体としての流れ、現象として事実を捉えようとするアプローチが注目されてきました。

1.2.2 Quantitative research vs. qualitative reserch

 Quantitative research(定量的研究)とは上記の科学的アプローチにも通じる、物事を全て測定できる数量に還元して捉えようという研究態度を指します。反対にQualitative research(定性的研究)とは現象を測定可能な数量としてみるのではなく、その質的な変化に注目したアプローチです。心理学とか教育学などで多く用いられる人間の心の変化や刺激に対する様々な反応に関する研究などが定性的研究の例です。

二つのアプローチの違いをDey (1993:9)はサッカーの試合のレポートを例にとって面白く説明しています。ウィンブルドンとリバプールのサッカーチームの試合が0対0の引き分けに終わったことを、「Wimbledon 0  Liverpool 0」と結果だけ報告すれば定量的な見方で試合の結果だけを分析したことになります。「セルハーストサッカー場の駐車場ではピッチ上を上回る興奮が繰り広げられました。」と報告すると、その試合がスコアレス・ドローという非常につまらない試合であって、駐車場での人々のいがみ合いの方がずっと面白かった、という「様子」が分かります。この様に結果だけでなく、物事の様子・性質・成り行き・流れにも着目するのが定性的アプローチです。

1.2.3 Nomothetic approach vs. ideographic approach

Nomothetic とは法則定立学的な、とか普遍法則の、という意味ですが、要するに世の中の現実というのは普遍的、客観的事実であり、個人が係わり合いをもつ余地は無いに等しい、という立場です。どの場所でも、どの時代でも、誰にでも通じる普遍的な法則(universal laws)を見出すことこそ価値があり、それが科学の目的だとの立場です。それに対してideographic approach は個性記述学的アプローチと言えますが、事実や現象は個人個人によって違っていてその個人的差異を無視するのではなく、むしろ大事にした個性重視、多様性重視のアプローチが必要だとする立場です。


1.2.4 Primary research and Secondary research

 上記の2項対立的なアプローチの区別とは異なりますが、リサーチにはまたPrimary Research と Secondary Researchの区別があります。Primary Rssearch とは独自(オリジナル - primary sources of infromation)な研究デザインで誰も今まで発見・解明しなかったことを自分の手で解明しようとする試みのことです。Secondary Researchとは主に文献検索(Literature Review)によって先人の研究(secondary sources) を比較・検討・総合する形で新しい「知」に到達しようとする試みです。

1.3 科学的アプローチ 

 Burnsは伝統的に「科学的アプローチ」と呼ばれている研究手法は客観性(Objectivity)、信頼性(Reliability)、一般性(Generality)、還元主義(Reductionism 複雑な事実・現象を単純な表現に言い換えようという立場)、固定的(Fixted)で単一の(Singular)真理・真実が存在するという信念、事実尊重主義に基く現実の見方、測定(Mesurement)と制御(Control)、などを重要視する立場であり、この様な立場は実証主義(Positivism)とも呼ばれると解説しています。

 またBurnsによれば科学的アプローチには四つの特徴があるとされています。

1.制御(Control)
 研究を行う上で結果に影響を与えうる様々なVariables (因子・変数・変項)をうまく制御することは科学的アプローチの最も重要な要素です。この制御が十分でないと調査・実験を行う毎に違った結果が出てしまうこともあり得ます。因子にはIV (Independent Variables -- 独立因子) とDV (Dependent Variables -- 依存因子)があります。IDは独立的に決められる因子、DVはIVの影響を受けて変化する因子です。例えば、温度変化によって変る物質の強度を調べる実験においては、温度がIVで強度がDVになります。このようなvariables が完全に制御できて初めて研究の妥当性が確保されます。
2.運用上の定義(Operational definition)
 研究に使用される用語は運用できる(操作できる)ような定義の仕方をしておく必要があります。例えば肥満度を比較する研究において、「肥満」という用語をただ「太っているひと」と定義したのでは研究を運用できません。こういう場合はBMI値が25以上(体重(kg)÷身長(m)≧25)が肥満であるという風に定義しておけば曖昧でないかたちで定義でき、研究に支障がもたらされず、他の研究者が同じ実験を検証しようという時にも誤謬・誤解が生じません。J.D. Brown (1988: 8) は operational definition の特徴としてそれが observable(観察可能で), testable(試験でき), quantifiable(数量化可能で), unique(曖昧でなく), exlusive(排他的)であることと説明しています。
3.反復性(Replication)
 実験が高い信頼性(Reliability)を保つためには、その実験が反復(Replication)に絶えられなければなりません。反復する毎に違う結果が出てきてしまうようではその実験の設計に大きな問題があると言えます。
4.仮説の検証(Hypothesis testing)
 リサーチのために立てた仮説は誰にも検証できないような研究者個人の直感によるものや、いわゆるその道の達人・専門家の意見そのものや、神のお告げのようなものであっては困ります。仮説は誰にでも解り易く、誰にでも開かれていて、誰でも同じ方法論を使えば検証できるものでなければなりません。Scietific approach が時に"public method"と呼ばれるゆえんもその様な公開性にあると言えます。


1.3.1 科学的アプローチに用いられる基本概念


実証主義(Positivism)―― 実証主義とは科学的な知識こそが唯一の明白で、信頼に足る知識だ、という立場です。科学万能主義とも重なります。更に科学的知識とは目で見える、耳で聞こえる、手で触れる、というようなはっきりとした形で経験的に獲得することができる知識のことです。心理学のなかでも、WatsonやSkinnerなどの行動主義(Behaviourism)の信奉者達は人間の内なる感情、信条、内省などというものは全てその「行動」から観察できるもの以外は受け入れないという立場でした。彼らは行動主義者(Behaviourist)と呼ばれます。

反証可能性(Falsifiability)―― Falsifyとは偽証、反証、論破する、ということです。Popperは反証可能性こそが真の科学と偽科学を分つ基準だと考えました。すなわち仮説はそれを否定するための厳密な検証を受けて初めて立証されるというものです。反証の余地が無いような偏見や盲信のような仮説は科学的仮説とは言えない、との考えです。統計学においては帰無仮説(null hypothesis) を反証することによって自分の仮説を証明していくというアプローチが良く使われます。帰無仮説とは二つのグループ、普通 experiment group と control group、との間に生じた差異は偶然によるものだ、とする仮説です。

演繹法(Deduction)―― 演繹法とはまず理論・法則を「仮説」という形で設定し、それから現実(資料・データ)にあたってその仮説が正しいかどうか検証する論理学上の方法論の一つです。演繹法のなかでもその典型として有名な考え方に三段論法(Syllogism)があります。これは大前提(Primary Premise)または命題(Proposition)と小前提(Secondary premise)から結論(Conclusion)を導き出す手法です。

PP: 動物は動く
SP: 木は動かない
Con: 木は動物ではない

演繹法の反対の概念が帰納法(Induction)で、これはまず事実・データを収集することから始め、そのデータを厳密に分析することを通してその中に法則性や理論を見出そうという手法です.
いわゆる科学的アプローチでは従来から仮説−演繹法(hypothetico-deductive approach)が主に採用されて来ました。なぜならこの方法によれば実証的なケースはもちろん、具体的な資料・データサンプルが手に入りにくい人間の脳の中の仕組みとか宇宙の果ての仕組みとかまで仮説と演繹を繰り返すことによって追及していくことが可能になるからです。
決定論(Determinism) −−Cohen, Manion and Morrison (2000: 10) は更に決定論、経験主義、経済性、一般性を科学的アプローチの根本に加えています。決定論とは物事・出来事には全て原因があり、物事・出来事は周囲の環境・条件によって(それがどうしてそこにあるか、それだどうして起こったのか、と言うことが)決定付けられている、(即ち運命論に似ています)という考え方です。何かが起こる時はその物事態が内部から変化するのではなく、必ず何かの影響でその変化が「起こされる」と考えます。そして出来事には法則性があり、説明の付かない出来事は無い、もし今、説明が付かなくとも、やがて研究が進めば必ず説明が付く、とします。即ち物事・出来事が起こるのに「気まぐれ」や「偶然」や「神様の遊び心」は無い、とする立場です。
経験主義(Empiricism) -- これは上の実証主義と同じく、経験的に証明できるものだけを信じようとする立場です。
経済性(Parsimony, Economy) -- 現象は最も経済的な(簡潔な)方法で説明されなければならない、とする考え方です。複雑な理論よりも、よりシンプルな理論の方が説明的妥当性が高い、とします。科学的アプローチでは現象を定式化(formulation)するのが好まれる理由の一つです。
一般性(Generality) -- 科学の一つの目標は観察された現象、発見された真理を一般化(generalize)して世界に訴えることです。ここのケースだけにしか当てはまらないような「真理」は価値の低いものとみなします。


1.3.3 科学的アプローチの強みと弱点

強み ―― 定量的、信頼すべき測定からもたらされる正確性。また標本採取とリサーチ設計に緻密な制御がかかっている(効いている)事。更に仮説が演繹的に検証されることによってより確実な真理が得られます。

弱み ―― 人間行動(human behaviour)を研究対象とした教育学や社会学のような学問・研究では「科学的」な考え方、すなわち「事実」は「真理」であり、それは全ての人に、何時においても同じである、という仮定は通用しない。なぜなら人間は非常に複雑かつ神秘的であり、個性は多様であり、自然科学の場合のように全ての因子(環境・変数)を完全に制御したかたちでの実験などあり得ないからです。ここに定量的なアプローチの限界があります。これにより、19世紀の中ごろから定性的アプローチへの流れが生まれました。


1.4 定性的アプローチの強みと弱点

強み ―― 定量的手法があまりに微細なデータを追求するあまり見逃しがちな全体としての現象・意義、予期せぬ結果、常識的でないこと、多義的な解釈、などが見えてくることがあります。科学的アプローチでは現実・事実は一つである、との前提がありますが、定性的アプローチでは現実はそれを個々人がどう解釈するかによって複数あるかもしれないと考えます。また「意味」というものもそれを定義する社会・コミュニティーの違いにより複数の「社会的意味」が定義されて来るはずだ、と考えることにより、人間の多様性により忠実に対応できる利点があります。更に人間を対象とした研究では単に人間を単なるモルモットの様に見るのではなく、その対象者の立場になった見方が可能になります。その上研究の報告形態が一般人に馴染みの無い数学的・統計的な計算結果ではなく、記述的・散文的な表現が採られることが多いので、研究者でない普通の人々 ―― 教師、看護士、コンサルタント、経営者、等 ―― にも解り易いという利点があります。

弱み ―― 定性的研究の多くは人間を相手にしているため、個々の実験・調査状況、環境、検体などが様々違っているので実験・調査を「再現・検証」することが難しいのが難点です。またその様な実験・調査結果を普遍性があるとして「一般化」(Generalisation)することも難しい面があります。また、データの収集、分析、解釈に多くの時間がかかること、実験者の存在、見方、偏見などの主観が被験者やデータ、またそのデータの解釈に好ましくない影響を与えてしまう事も有り得ます。言い換えれば定性的アプローチへの批判はその妥当性(Validity)と信頼性(Reliability)に難点があるということです。


1.5 妥当性(Validity)と信頼性(Reliability)

この二つの概念はあらゆる研究・実験・テストにとって押さえておかなければならない最も基本的で重要な性質です。

妥当性(Validity)
妥当性とは、ある研究・実験・テストが本当にその解明しようと目指すものを解明し得ているか、という度合いのことです。例えばチンパンジーが人間の言葉をどれほど理解できるかという「言語能力」を測る実験において、実際はチンパンジー達が実験者の問いかけ(発話)に耳を傾けていたのではなく、実験者の仕草や口の開け方に反応していただけだとしたら、この実験はチンパンジーの「言語能力」を測っていることにならない、すなわち妥当性が低い、ということになります。

信頼性(Reliability)
信頼性とは、ある研究・実験・テストを同じ手法で繰り返せば誰がやっても全く同じ結果が得られるということです。すなわち結果が信頼に足る、不変のものである、という性質です。また信頼性は実験やテストの「評価」についても当てはまります。テストにおけるあるパフォーマンスが何時、誰によって「評価」されても同じ評価結果が出てくる時、その評価方法は信頼性が高いと言えます。

References

Brown, J.D. 1988. Understanding Research in Second Language Learning. Cambridge: CUP.

Burns, R.B. 2000. Introduction to Research Methods. 4th edition. Longman.

Cohen, L., Manion, L and Morrison, K. 2000. Research Methods in Education. Fifth Edition. London and New York: Routledge.

Dey, I. 1993. Qualitative Data Analysis. London: Routledge.

Nunan, D. 1998. Research methods in language learning. Cambridge University Press.